正雪君の話。

白薔薇の君シリーズとでも銘打とうか。

[0回]

ぼくの先ぱい。
一年は組 加藤団蔵

　ぼくは会計委員会にしょぞくしています。きょうの作文は先ぱいについてなので、ぼくは五年い組の相尾正雪先ぱいのことを書こうと思います。

　相尾先ぱいは会計委員会の先ぱいの中でいちばんやさしい先ぱいです。ぼくのきたない字を、怒らずにひとつひとつきいてかくにんをとります。そうしてまちがいがあれば朱でなおして、こんどはまちがえないようにおちついてていねいに書きましょうね。と言ってくれます。四年の田村先ぱいも委員会のときはふだんよりかはやさしいけど、相尾先ぱいの方がとてもやさしいです。
　てつやになると、相尾先ぱいはやしょくを作ってきてくれます。とてもおいしいです。何でこんなにおいしいごはんを作れるのかきいたら、とのがたはいぶくろでつかまえなさい、とかあちゃんに言われたそうです。ふつうそれは女の子が言われることだけど、それでおいしいごはんを食べられるならいいやとおもいました。
　だってしおえ先ぱいも、相尾先ぱいがおやしょくですよ、と言ったらどんなにけっ算が近くてもいったん休けいしてくれるからです。相尾先ぱいはしおえ先ぱいのいぶくろをがっちりつかんでいると思います。

　相尾先ぱいは計算もとても早くてせいかくです。そろばんをはじくのも早いけどうるさくないからすごいと思います。
　どうやったらそんなふうにできるのかきいたら、にっこり笑ってから先ぱいはなれです。とこたえました。なので、ぼくも先ぱいくらいになったらできるのかな、とおもいました。でも、しおえ先ぱいも田村先ぱいも音はうるさいです。ふしぎです。
　相尾先ぱいは本当にやさしいです。おこったところを見たことがありません。そうかんざき先ぱいに言ったら先ぱいも相尾先ぱいがおこったところを見たことがないそうです。田村先ぱいに聞いたらかおの色を青くしてそれい上きくんじゃない。あくむが。と言っていました。たぶん、田村先ぱいは相尾先ぱいがおこったのを見て、すごくこわかったんじゃないかな、と思います。でも、なんでそんなに先ぱいがおこったのかは気になります。でも、きくなきくな、と田村先ぱいが言うのですごくすごーくこわかったんだと思います。おもいだすのもいやなくらい。でも、ぼくは相尾先ぱいがおこったところはみたことがありません。なので、ぼくにとっての相尾先ぱいはとてもやさしくて、かあちゃんみたいなせんぱいです。
　かあちゃんみたいにはさすがにぼくはなれないけど、ぼくは先ぱいになるのなら相尾先ぱいみたいな先ぱいになりたいと思います。そう一年い組のにんぎょう左吉に言ったら、おまえなんかがなれるわけないだろ、と言われました。そういう左吉の方がぜったいなれないとおもいました。だって、相尾先ぱいは同きゅう生にそんなこと言わない人だからです。
　ぼくにはまだ先ぱいの年まで何年かあるので、がんばって先ぱいみたいになろうと思います。


　ひらりと、土井半助の抱えた紙束から一枚の料紙が落ちた。それをたまたま拾い上げた相尾正雪はその中に自分の名を見つけ、ざっと一読した。

「土井先生、作文を落とされましたよ」

　呼びかけられた土井は正雪の手の中にある料紙を見て「ああ」と声を上げた。

「ありがとう。相尾。急いでたもんだから落したことすら気付かなかったよ。ああ、団蔵のか。読んだのか？」
「自分の名前を見つけてしまったので、思わず」
　照れたように正雪は笑う。赤に近い薄茶の虹彩が瞼の奥に消え、白い面には若干の朱が上る。
「随分と慕われているようだな」
「私は飴役なので……鞭役の潮江先輩にはとても申し訳ないと思っています」
　潮江先輩はとてもお優しい方なのに、と正雪は本当に申し訳なさそうに答えた。その様に土井は苦笑する。
「それで均衡が取れているならいいじゃないか。潮江もその辺を分かっていて鞭役に徹するんだろう。たまに飴の部分が出ているがな」
「そうなのでしょうか…それならば良いのですが……」
「それにしても、団蔵のこの悪筆をしっかりと読めている方が私はすごいと思うな」
「ああ。慣れましたから。左門も一年生の頃は字も迷子だったので」
「……そうか」
「ええ、そうなんです」

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設定的な感じの。