もう少し警戒心が強いと思ったのに。

[0回]

　とってもとっても簡単で、私は拍子抜けした。
　ええ、本当に。

　ちょっと手伝ってあげて、ちょっと笑いかけてあげて。

　たったそれだけ。

　それだけで園部心愛という雌犬は尻尾を振ったのだ。


「何コレ何の冗談わけわかんないねえさぶろ」
　ぐじゃりと饅頭を握りつぶし、沙衣は我に返って「あ」と声を上げた。
「勿体無いお饅頭！　何で私潰しちゃったの！！？」
「ちやほやされるのが嬉しいんでしょうね。そんな感じですよ」
　三郎も沙衣が出した饅頭を手に取った。手に付いた饅頭だったものを舐め取りながら、沙衣はすぅ、と目を細める。
「ふぅん？　彼女の世界に“嫌い”はないのかねえ」
「沙衣先輩もないでしょう？　“嫌い”は。今回のを除外して、ですけど」
　三郎の言葉に沙衣は目を丸くする。
「先輩は好きか興味無しかですからね。対応見てれば分かりますよ。好きなものと興味がないものの対応の差が激しいですし。と、言っても他の人間がこれを見抜けるか、と問われると否と答えましょう。先輩は実に上手に周りを欺けていますから」
「へぇ」
　沙衣は口角を釣り上げた。瞳は笑ってすらいない。
「俺は辛うじて好きの端に引っ掛かっているから気に止めてくださったんでしょう？　五年の中で一番好きなのは、兵助ですもんね」
「良く分かったね、お前。ただ一つ、間違っているとしたら“嫌い”はあるってことくらいかしら。ただ、その“嫌い”が目の前にないだけでね」
　視線を外してぺろぺろと沙衣は手を舐めていく。
「俺も似たような種類の人間ですから。ちなみにアレの場合、“嫌い”がないのでなく、愛されて当然だっていうものです。嫌われることなんて有り得ない。だからこそ何事にも寛容になれるんですよ」
「……反吐が出るわね。ところで三郎」
「何でしょう」
「委員会にも出ず、雷蔵たちと共にあることもせず、私といていいわけ？」
　私あんたと恋仲とか噂流れるの、嫌よ？
　にやにやと楽しげに笑う沙衣に、三郎は澄ました顔で答える。
「また沙衣先輩と任務って言ってありますから。俺たちがペアの任務は結構ありますし。それに、今雷蔵たちの傍にいるのはすごく嫌です」
　その答えに面白くないという風に沙衣は顔を背けた。この面白くない状況で少しくらい面白いことがあっても良いじゃないか、という体だ。
「……そ。まあ、私も今イサや美ぃたちとあまりいたくないわね。じゃ、任務の話し合いといきましょうか。はい、じゃあいつもの矢羽でね。いくら気配がないとはいえ、聞かれちゃ困るわ」
「沙衣先輩の秘境育ちの勘でバレない生徒はいないと思いますが」

「あら、万が一を考えてよ。まさかまさかが忍の世界でしょう。三郎」

ただ今任務作戦会議中です。