ねぇね？　楽しいでしょ滑稽でしょ？

だから早く終わらせる準備をするのよ。
ねぇ、さぶろ？

[0回]

　とてもとても嫌そうな顔の三郎に沙衣は楽しげに笑った。

「反吐が出る」
「でも私は好都合だと思うの」

　場所は沙衣の部屋。

　早合に火薬と鉛玉を詰め込みながら沙衣は言う。

「ほら。よく言うじゃない。惚れた方が負け、って」
　早合を木箱に詰め、今度は火縄銃のヒナコを解体して整備する。一片一片を丁寧に磨き、組み立てていく。解体と組み立ては的確で正確でものすごい早業だ。三郎は感心したようにそれを眺めている。

「相変わらず、スゲっすね」
「んー、伯父さまやりっちゃん（利吉）に比べりゃまだまだ。あの二人もっと早いもんー」
　今日も素敵ねヒナコちゃん。とうっとりと愛銃を撫でる沙衣。武器愛好者たちはそろって名前をつけている。よく考えれば四年にしかいないが。そうして沙衣は口の端で嗤うと彼女は楽しそうに言葉を紡ぐ。

「それに先生たちから許可はもらっているわ。だから遠慮せず自由に動き回れる」

「……先輩…いつの間に」
「楽に動きたいでしょ？　使えるものは何でも使うのが忍者ってものだし、先生方も彼女には良い感情は持ってらっしゃらないみたいだしね」
　くすくすと沙衣は組上げたヒナコに頬ずりをする。うっそりと沙衣は目を細め、三郎を見やる。妙に婀娜めいた視線に三郎の心音が少し上がる。
「本当はこの子でドンと一発が楽なのだけど、それじゃあ私の(・・)気も治まらないでしょ？」

　だからね？
　幸せな夢を見せて絶頂から絶望に突き落として、絶望と恐怖の直中でじわじわと苦しみぬかせて殺しましょう？
　死を迎えることこそが救いだったと思えるくらいに。
　己の罪の深さを思い知るように。
　全てはあの女狐の罪。

　悦に浸るようにゆたりと沙衣は笑む。
　ぞくり、と悪寒が体中を駆け巡る。ざり、と三郎は座ったまま心持一歩沙衣から引く。

「いまさら怖じ気付いて後悔しても遅いのよ。さぶろ？」

　沙衣は一瞬で間合いを詰めた。三郎の胸倉を掴み唇が触れ合う程に顔を近づけ、彼女が愉しげに言葉を紡いでゆく。その瞳には昏い感情が渦巻いている。いつもの明るく奔放な霧壺沙衣はそこにはいない。


　まずは、天女様とちょっとばかし仲良くなりに行きましょうか。

さぁさ。幕を下ろす準備をしましょう。