手を離してあげる。
君が好きな人の所へ行っておいで。

原稿書きながら、これはここじゃ要らんかな～と思って削った部分をリサイクル（笑）

喜八郎、五年。
藤内、四年。

[0回]

　秋風が心地よく、空も青く澄んで高い。藤内は絶好の予習日和と青空の下教科書を読んでいる。隣にはぽっかりと穴が一つ。中では喜八郎がざっくざくと穴を掘り進めている。
「……ねー、とーない」
　穴を掘り続ける手を止めず喜八郎が藤内を呼ぶ。穴の傍で喜八郎に問いかけながら予習をしていた藤内は教科書から顔を上げ、穴の方を覗き込んだ。
「何ですか？　喜八郎先輩」
　穴の奥で桔梗色が蠢いて、土に汚れた白い顔が藤内を見上げた。
「藤内は次屋が好きだよね」
　そう喜八郎が問うと、逆光になっていても分かるくらいに藤内の顔が赤く染まる。三年の終わり頃から視線が常に三之助を追っていた。三之助自身は二年の頃から藤内を追っていたが。喜八郎は手を伸ばし穴の淵へ顔を出す。赤く顔を染めて挙動不審に視線を彷徨わせる藤内の頭を撫でて、ちらりと校舎を見上げた。四年ろ組の三人組が窓からこちらを覗いているのが見える。喜八郎は目を細め、小さく笑った。
「喜八郎先輩？」
　藤内が訝しげに喜八郎を呼ぶ。喜八郎は去年己が纏っていた紫紺色を撫で、何でもない風に取り繕った。藤内はこちらを見ている三人組には気付いていないようだ。
「ねー藤内。手を離してあげる」
　喜八郎の言葉の意味が分からないのか、藤内は首を傾げる。それを眩しそうに見つめると喜八郎は言葉を続ける。
「僕はね、大事な人ほど傍に置いておきたい人種なんだ。藤内も勿論、滝もね。三木もタカ丸さんも。大事な人には傍に居て欲しいって我儘を言う人間なんだ」
「我儘、ではないですよ？　当然の気持ちだと僕は思います」
　ありがとう、と藤内の言葉に喜八郎は素直に答える。
「でもね、藤内。大事な人にはやっぱり特別大事な人が出来ちゃうんだよね。僕以外の。だから、僕は滝も三木も手を離した。大事な人たちは笑って居て欲しいから。僕の傍でなくても良いから、幸せそうに笑ってくれているのを見るのが、一番嬉しいから……」
　す、と浮かんだ彼の表情は迷子の子どものようなもので、藤内は先程自分がされたように桔梗色に包まった頭を撫でてみる。それに対して喜八郎は猫のように目を細めてくすくす笑った。
「藤内。ねぇ、藤内。僕は手を離したよ。まあ多少意地悪するのは許してね？　だから、次屋の隣へ行っておいでよ。君は僕の一番のお気に入りだから」
　手を離すのが遅くなってごめんね。
　ふとすると泣きだしそうな表情で喜八郎は穴の底に戻る。藤内は穴を見、教科書を見て、ふと、校舎を見上げた。そこに並ぶ三人の顔。ぎょっとしたように三人とも教室の奥に顔を引っ込めるが意味がない。藤内は笑ってその場から駆けだした。

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転生タグじゃなくても良いけど、転生パロので書いてたから転生タグで。
基本的に室町次浦＋綾は転生軸でも通常軸でも同じなんだよなー。次浦六年以前は…。