今年最後の更新を。。。

えらくやっつけですけど。。。

五年生が勘ちゃんちでだらんと大晦日。

[1回]

　大晦日。
　一年最後の日である。

　大川市忍坂商店街にある尾浜豆腐店の一階では近所から集まった大人たちの酒盛りが繰り広げられている。
　そして二階。
　二階では尾浜家長男の勘右衛門とその友人たちがのんびりと過ごしていた。

「でも本当にごめんね、勘ちゃん。いきなり押しかけちゃって」
「良いよ、雷ちゃん。気にしないで。あ、下の居間と座敷には近寄らないように気をつけてね。酔っ払いに絡まれるから」
　ちなみに勘右衛門の姉に当たる照代は下の大人たちに交じって酒盛り中である。お陰で二階にいるのは勘右衛門ら五人だけである。
「うん分かった」
　雷春が返事をすると、勘右衛門が部屋のドアを開ける。開けた先にはお盆に五つの丼を乗せた氷華がちょん、と立っていた。
「勘ちゃん。おば様からおうどん頂いた」
　勘右衛門がお盆を引き取り、雷春が手早く部屋に据えてある炬燵の上を片付ける。
「ありがと、ひーちゃん。重くなかった？」
「大丈夫。委員会で肥料とか持つから。このくらいの重さは何でもないよ」
「そう？　本当、ひーちゃんも雷ちゃんも手伝ってくれるのに、突然押し掛け来たこっちの二人はさっきからひたすらゲームだよ」
「三郎！　はっちゃん！」
　雷春が声を上げると、三郎と八左ヱ門はゲームを一時停止して振り返る。
「ごめんな勘ちゃん。うっかりゲームに夢中になっちまってさー」
　八左ヱ門が悪びれなく笑う。
「らぁ、手伝ったらちゅーしてくれる？」
「あはは。寝言は寝て言ってね。あ、お箸一膳足りないや」
　三郎の顔面に裏拳を叩きこみながら雷春が言うと、「取って来る」と氷華が部屋の外に出た。
「あ、待って。俺も行くよ。飲み物足りなくなってるし」

　ぱたん。

「……で、三郎。勘ちゃん家にご迷惑なるのに押し掛けたのに何か意味でもあるの」
　じろり、と雷春が三郎を睨む。
「んー？　特にないぞ。俺らの両親が年末年始ハワイに行ってしまってるから寮に残ってて…課題もあるし。大晦日と三が日は食堂閉まってるしー、氷華が勘右衛門の所で年越しするって言ったから、じゃあ俺とらぁとハチも。って来ただけだろ？」
「玄関に出てきた時の勘ちゃんの顔は見ものだったよなー。下がこんな騒ぎだと上で何していようがバレる確率は低いし」
　八左ヱ門がくくくっと喉の奥で笑いながら意地悪気にドアの向こうに視線を向ける。
「それに夜は寮内を行き来出来ないかららぁ一人になるだろ」
　ひとりぼっちじゃ寂しいだろう。とぽんぽんと三郎は雷春の頭を優しく叩く。まあ確かに、いつも騒がしい寮が静かな今、一人部屋にいるのは寂しい。が。
「年末だけ家に帰れば問題ないじゃん」
「交通費がとんでもないだろ。年末は」
「うー……」
　ぱたぱたと羽をつけて飛んでいく諭吉様を何枚も見送る幻影を見た雷春は口をつぐむ。確かに、とんでもない。さらに、今日はここに来るまででも電車が遅延していた。大川学園から尾浜家までローカル線を三駅乗っていなくてはならない。ちなみに車だと三十分ほどの距離である。

「はいお箸とお茶とジュースとあっつい緑茶。おうどん食べたら女の子は早々にお風呂入っておいでね。男共はその後。十二時位に近所の寺で除夜の鐘突くからね。その後お宮に初詣して、年越し蕎麦を頂きます」
　がちゃっとドアが開くと同時に勘右衛門がそう曰った。
「え！　何！！　鐘突くの！？」
　何それ面白い！　と食いついてきた三人に勘右衛門はきょとと瞳を瞬かせる。
「突くよー。あれ？　八ちゃんたちって除夜の鐘突かないの？」
　いただきまーす。と全員で手を合わせてうどんを食べ始める。
「近所に寺無いしー。紅白見て蕎麦食っておしまいだよな。らぁ」
「うん。意外とそういうお家の方が多いと思うなあ」
「ふぅん？　うちは婦人会の皆さんとかがおつまみとかも用意してスタンバイしてるよ。寺。鐘はお一人様につき一回ね」
　ずるずるとうどんをすすりながら勘右衛門は答える。
「りょうかーい」


　そうして夜も更けて今年が終わり、来年になるのである。