…悪いモノは獣の腹へ。良いモノは天へ…お還りなさい？

[2回]

　くすくすと愉しげに笑う少女の声が洞窟内で反響する。
　獰猛な獣の声に、ばりばり、ごり、ぐちゃ、と肉や骨を咀嚼する音。その度にくぐもった悲鳴が聞こえる。
　鬱蒼と茂る緑が覆い隠す洞窟の中、篝火に照らされる鮮やかな赤と黒。強烈な血の香と内腑の臭い。

「やぁだ。天女様って言うからどれだけ典雅な香りがするかと思えば、そこらの下衆と同じ臭いじゃない」

　痛い？　痛いの？　大丈夫、気を失っても起こしてあげるわ。大丈夫よ。この二頭はちゃぁんと急所は外してくれているもの。死にやしないわ。

　天女と謳われた少女は助けを求めて眼球を忙しなく動かし、恋心を抱いていた少年へ懇願するように目で訴える。

　少年は何も映すことのない昏い色を湛えたままじっと眺めているだけ。

　頭の中が霞がかり、酷い痛みに気が遠くなりそうになるたびに強烈な臭いを嗅がされて意識を引き戻される。足先、指先からかじられたり、腹や腿や腕をかじられたり。時折少女も苦無を片手に参戦する。

「さぶろ？　最初の首絞めだけで満足なの？　トドメを刺させてあげましょうか？」
「いいえ。沙衣先輩。それはもう塵屑ですよ」
「あら。志郎丸玖郎丸。お腹はいっぱいかしら？　そう。じゃあ、適当に撒き散らしておきましょう。あ、さぶろ。頭破壊してくれる？　私の力じゃちょっと無理だわ」
　コン、と沙衣は足先で天女の頭を転がした。

　三郎が手頃な大きさの石を拾い振り上げ、下ろす。

　グシャリと頭が潰れると同時に、バチンっ！！

　と大きな音が響くと辺りは暗転した。

少女と少年に地の底へと堕とされる。