「お帰り」より先に「天女様」。

[0回]

　報告が終わり、沙衣は三郎と別れてくノ一教室の長屋へ向かう。久々の自室。放課後という時間的にも、決算が終わったばかりという時期と言うことで、同室の瀬川美也は在室であろう。

　美ぃには、笄と髪紐（ちょっと髪伸びてきてて切る様子もないし伸ばすのかな？）、弥白ちゃんには欲しがっていたお香（近くの町じゃ売り切れてたのよねー。限定らしくて入手不可なんだってー）、さっちゃんには上質の筆（こないだお気に入りの筆が駄目になったって言ってたし）。皆喜んでくれるかなー。



「美ぃー！　たっだい」
　まー！！

　と戸を引くが、部屋の中は蛻のから。
　ありぁ。と沙衣は声を上げ、荷物を置くとぐるりと視線を巡らせた。
　自分の物が出ていく時と少し置き場所が変わっている気がするが、同室の美也が動かしたか借りたかしたのだろう。さして気にも留めずにふむ、と沙衣は首を傾げた。

「……委員会かな。弥白ちゃんとさっちゃんとこも人の気配無かったし。んー、まぁ先にお風呂入ってサッパリいくかなー」

　替えの装束を抱え、沙衣は部屋を後にした。

○×△

　三郎は長屋に戻る途中に友人たちと出くわした。
　ただいま、と言おうとすると、友人たちはものすごい剣幕で三郎に迫る。

「ねえ三郎！　心愛（ここあ）さん見なかった！？」
「……こ、こあ、さん？」
「三郎心愛さんしらねぇの？　天女様だよ天女様！　心愛なんて風変りで素敵な名前を持つ天女様！」
「名前の字を見ての通り、心から愛があふれる御仁なんだ！　肌もとても白くてすごく可愛いし！」
「……へぇ」
「興味なさそうだねぇ、鉢屋。まあ、本人を見たらきっと納得するよ。一緒に探そう」

　ぐいぐいと腕を引かれたが、三郎は首を横に振った。

「いや、俺は疲れているから先に休むよ」
「そう？　じゃあ、行こうか。兵助、勘ちゃん、八ちゃん」

　そう言って三郎を置いて四人はその場から立ち去った。

皆が天女様と連呼する。

　なあ、雷蔵。
　なあ、兵助。
　なあ、勘右衛門。
　なあ、八左ヱ門。


　おれに、おかえり、っていってくれないのか？

　おれよりも、そのここあっていうてんにょがだいじなの？

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鉢屋くん早速被害っぽいの。