[1回]

逆ハ主：
北條明日香…「平成」から来たという天女と呼ばれる現代人。高校二年生。夢見る思い込みの激しい少女。この世界のヒロインなのだから何やっても良いのだと思っている。常識があるはずなんだけど、ぶっ飛んでる。

傍観主ら。：
森野刃衣（もりのはごろも）…学園の近くに設けてある鍛冶工場の女刀鍛冶師。学園専属。九州は筑前の国の出。腕は良い。体育委員のランニングについていけるほどの体力がある。一年は組と仲が良い。

「天女、ねえ」
「刃衣さんは興味ないんですかあ？」
　ぼさぼさの黒髪を纏めて頭には手ぬぐいを巻いた女性がふぅんとばかりにしんべヱの話を聞く。力持ちのしんべヱが欠けたりしている苦無や手裏剣を持って鍛冶工場に現れ、先日現れた『天女』と呼ばれる少女の話をしたのだ。
　工場には基本的に学園の人間しか来ない。勿論、刃衣の腕を聞きつけて訪れる剣客たちも来る。が、普段は一人だ。
　刃衣は鍛冶工場自体が自宅なので、そこで食事も風呂も一人で賄える。学園の生徒や教師が来るか、たまに食堂に顔を出すとかをしないと学園の噂は届いてこない。体育委員がランニングに誘えば一緒に走り、学園の噂も聞くのだが…ここ数日何の音沙汰もなかった。そして目の前にいるしんべヱもどこか元気がない。話を聞く限り、上級生の生徒はほとんど皆天女と言う少女に夢中なのだろう。今日の委員会も四年の柚月汐琉が指示をしたらしい。用具委員長の食満留三郎は来ていたらしいのだが、一緒に天女という少女もついてきていて仕事にならないらしい。

「うーん。そうやねえ。山の神様火の神様はお祀りしようばってんっさ、天女は守備範囲外やねえ」
「そうなんですかあ？」
　しんべヱの声に若干元気が戻る。
「そうなんよ。」
　よし、と話しながら欠けの軽い物、ひどい物に仕分けていた手を止めてしんべヱを見る。
「欠けの軽いもんは明日には仕上がるけん、取りぃ来ぃね。それを留三郎君と吉野先生に言っといてくれる？」
「はーい」
「酷いもんに関しては明日どのくらいかかるか教えるけんね。帳面持ってきてから書付りぃよ」
「はーい」
「そう言って毎度帳面持ってくるの忘れるけんねえ……。どげんしたもんやろか」
　天井を見上げて刃衣は唸る。
「刃衣さんのお家に帳面を置いて、それに刃衣さんが書いて、僕が忘れずに持って帰ればいいんですよー」
「うち、悪筆なんよねえ」
「悪臭？」
「あーくーひーつー！　字が汚い、ってこと！」
「団蔵みたいな？」
「……団蔵君程ではなかねえ」
　前見せてもらった団蔵の字を思い出して刃衣は言う。
「しょうがなかたい。帳面忘れたらそげんしょう」
　そして思い出したようにぽん、と刃衣は手を打つ。

「しんべヱ君。うち、学園の方に用を思い出したんよ。一緒に行こう」
「はーい。どこに行かれるんですかー」

「うん。志帆ちゃんとこ。火傷の薬もらう約束しとったっちゃん」
　にこにこと快活に笑うとふにふにとしたしんべヱの手を取って外に出る。

　うちは天女とかそげん興味はなかばってん、内情ば見とくくらいは良かろうや。
　色恋沙汰に他人が首突っ込むことじゃなかっちゃけどねえ。でも彼女持ちがデレデレしとるんはねえ…。
　そーげんしても、これが沙衣ちゃんたちに知れたら、えらいことになろうねえ……。できれば、帰ってきーしゃる前に方がついときゃよかっちゃけど。さぁて、どげんしたもんかねえ。
 

刃衣、出陣。
刃衣はナルミちゃんの夢主さん。
許可を頂いてお借りしましたー。
方言は、いおとナルミちゃんの地元のもの。
文章で書くと難しいぞ。