[1回]

バレンタインデー。
それは乙女たちの戦争である。

「ねえ。いつまで見てるの」

　綾部喜八瑠は自分用と風紀委員会用、滝姫三希隆丸のチョコが入った袋を片手に、呆れたように延々と悩む友人二人を見る。

「小平太先輩は、やはり、質より量か？　いやでも、やはり質を」
「文次郎先輩は甘い物が得手ではないからでも、苦すぎるのもちょっとこれ？　それともこれ？」

　が、平滝姫、田村三希、二人とも全く聞こえていないようだ。
　喜八瑠ははあ、と溜息をつく。
　そうして、ふと、周りを見渡した。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅおや、まあ」

　にぃ、と唇を吊り上げる。

　綾部喜八郎だった時の忍の感性、記憶、技能をそっくりそのまま今の体に移し替えたのが今の綾部喜八瑠だ。今、学園に転生している生徒の中で、彼女が一番忍に近い。
　周りの知った気配を数え、一人、笑む。

「みーんな、同じ日に買いに来たんだねえ。あちらには不破先輩と久々知先輩。向こうには立花先輩と善法寺先輩。そっちには藤内と三反田。あそこには奈々と任暁と上ノ島」
　一年二組と三組は一緒くたに。

　ショッピングモールSHINOのバレンタイン特設コーナー（かなり広い）に沢山の見知った馴染みの気配。

「女の子、だねえ。それにしても、二人ともまだ決められないのー？　ねえー」

　自分も十分女の子らしくチョコレートを買っておきながら喜八瑠は目の前でいまだに悩む友人二人に再び声をかけた。

　これはバレンタインデーの前哨戦である。