白薔薇(しろそうび)の君

連作的な感じで進めようかと。
最初は誰々と、みたいな感じで。

一番手は三郎。

今更ながら、いおはろ組じゃ三郎が一番好きなようです。

[1回]

　白薔薇（しろそうび）の君と呼ばれる生徒がいる。

　金色味がかった白く長い髪に赤に近い茶色の瞳。くノたまも羨むような真白い肌。体つきは華奢で女性のような面立ち。常に優しく微笑む姿はまるでたおやかな女神の如く。


「……って、言われている五年い組会計委員会所属の相尾正雪」
「おや、三郎。どうかしたのですか？」

　白薔薇の君と呼ばれる相尾正雪は縁側で湯のみを抱えて、呼びかけに応じる。ふわりと微笑む様は母親のようで…実際に後輩から「母上」とか言われることがあるらしい…まあ確かに彼にはこどもともいえる手のかかる輩が二人べったりと張り付いている。

「三郎？　おなかでも空きましたか？　先ほどおまんじゅうを作りまして、良ければお一つ如何ですか？　あぁ、そうなるとお茶を準備しましょう。三郎？」
　いそいそと湯のみを盆の上に置いて立ち上がり、背後の自室に戻ろうとする正雪を三郎は引き留める。不思議そうに正雪は三郎を見上げた。彼と三郎の身長差は頭一つ分とは言わないが、四分の三程度はある。赤に近い色合いの目がじぃっと三郎を見つめる。

「お前、日に当たって大丈夫なのか」
　そう問うと、正雪はきょとと赤い瞳を瞬かせた。
「あぁ、ご心配なく。しっかり化粧はしています。もちろん、肌にも優しい漢方満載の白粉ですよ。三郎にも分けて差し上げましょう。あなたはいつでも何かに変装していますから、鉛入りの白粉よりもこちらの方がよろしいでしょう？」
　ふわり、ほわり、という効果音が聞こえそうな笑みをいつも浮かべる正雪は名案だというようにぱちんと手を打ち合わせ、ますます笑みを深めた。
　待っていてくださいね。と正雪は自室に引っ込んだ。
　それとほぼ同じタイミングで「正雪せんぱぁい！」と幼い声が響く。

　現れたのは会計委員会の一年生。

「あ。変装名人で変態の五年ろ組学級委員長の鉢屋三郎先輩！　今日も同じ組の不破雷蔵先輩の顔なんですね！」
「こんにちは鉢屋先輩。団蔵、あいさつしろよ」
「今からしようと思ったんだよ左吉。こんにちは鉢屋先輩！」
「正雪なら「おやまあ、団蔵、左吉。よく来ましたね。何かご用ですか？」

　ひょい、と部屋から顔を出した正雪がにこりと笑って二人の名を呼んだ。それだけで団蔵と左吉は嬉しそうに笑った。

「こんにちは正雪先輩！　潮江先輩がきんとうしょくばいだって！」
「正雪先輩こんにちは！！　違うだろ団蔵！　きんきゅーしょーしゅーだ！」
「緊急招集ですね。分かりました。では、このおまんじゅうを持って行ってください」
　一度奥に引っ込んでまた出てくると一年生が抱えると大きな包みに見えるそれを渡す。「おまんじゅう」と聞いて一年二人の顔は非常に緩んでいる。
「すぐに参りますので、と潮江先輩に伝えてくださいね」
「「はーい！！」」
　元気に返事をすると団蔵と左吉はきゃあきゃあと騒ぎながら廊下を走っていく。
「あぁ！　慌てる子どもは廊下で転びますよ！」
　だーいじょーぶでーす！　と元気な返事が返り、正雪はにこにこと手を振った。

「それでは三郎。こちらがその白粉です。肌に合わないようなら言ってくださいましね」
　漆塗りの高価そうな容器に入ったそれを、三郎の脇に置く。ふわりと笑みを浮かべて、急須から湯呑みにお茶を注いだ。
「……お前ってさあ…」
「はい？」
　どうかしたましたか？　と顔を上げた正雪に、三郎は深々と溜息をつく。
「ほんっとーに母親だよなあ……」
「？　女子時代が長いので仕方ありません。近所でも女子だと認識されていますし……お見合いの絵姿が大量に送られて参りますので……参りますねえ。家人は私が男と認識しているはずなのに」
　月一でこれだけ送って来るんですよ。と量を手の動きで示しながら正雪が説明すると、その量に三郎は瞠目する。
「……マジ…？」
「適齢期、でしょう？　女子は。来たら即燃しておりますが……兵助や勘右衛門に見つかったら五月蝿いですし」
「まぁな。で、緊急招集なんだろ？　良いのか？」
　饅頭の入った菓子鉢と湯呑みと急須。それらを三郎の脇に置き、正雪は衣擦れの音も感じさせずに立ち上がる。ふわりと正雪が好んで使うスッキリと爽やかな香りが三郎の鼻孔をくすぐった。
「そうですね。では、お茶とおまんじゅう、こちらに置いておきますのでごゆるりとどうぞ。使い終わったら部屋に置いて頂ければあとで片付けますから」
「洗って置いとく。ありがとな」
「いいえ、お構いできず申し訳ありません」
　お辞儀をすると金色味がかった白髪がサラリと背からこぼれおちる。絹糸のような髪は長く、礼をしたり屈んだりすると床について余るほど。よくこれで任務に行けるよなぁ、と三郎は感心する。

　お人好しのお節介。い組＆会計委員会のオカン。くノたまよりも女性らしい。
　それが鉢屋三郎の相尾正雪に対する認識である。