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色々ネタ置き場(主にRKRN)。 主に二次創作・夢小説系。ごく稀にオリジナルもあるかもしれない。。。
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彼は暫しの間道化からヒトに立ち返り、ふと、思考を巡らせた。

しかしそれは有限で。

結局のところ無意味なことだった。

拍手[1回]


 ふ、と頭の中の靄が晴れたような気分で伊作はトイレットペーパーが詰まった風呂敷を背負いなおす。最近そのように一瞬靄が晴れるような心持になることがある。大体、一心不乱に何事かに打ち込んでいたりする時などに…。今も、次の休憩時間までにトイレットペーパの補充をしようと駆けまわっていたのだ。塹壕に落ちたりしつつ…。

 顔を上げた先に校舎があり、その屋根の上に見慣れた桃色。輪に結ったこげ茶色の髪を揺らしてくノたまが一人佇んでいる。

「沙衣?」



道化は暫しの間立ち止まる。





 そういえば、自分は彼女をどれほど見ていなかっただろう。
 暇さえあれば彼女は医務室で伊作の隣にいた。不運に見舞われ易い自分の補助をするような形で。もちろん、彼女自身も自分の委員会があり、委員長という立場なのでそうしょっちゅうとはいかないが。しかし、隣にいる時間は同室の瀬川美也と同じくらい長いのではなかろうか。

 最後に見たのは数日以上前だ。彼女が任務から戻った日。

 顔を蒼白にして美也の怪我の具合を聞いたあの日。

 あの時己は何を言ったのだろう。


 任務から戻るたびに『おかえり』と言えば彼女は嬉しそうに顔を綻ばせる。それがまさに至福の時間とでも言うように。

『おかえり、って言ってもらえるのはとても素敵なことよ。だって私が帰って来ても良い場所ってことだもの。一番帰りたい場所はもうないから、イサたちが…大好きな人たちがおかえり、って言ってくれる場所が私の帰る場所だわ』

 屈託なく笑いながらそう答えたのはどれほど前だったろう。だから伊作は沙衣が帰って来る度に「おかえり」を言う。自分も任務でいない時は帰ってきた時に「ただいま」と一緒に「おかえり」を。それだけで彼女は嬉しそうに笑うのだ。

 初めて会った時に乏しかった表情も今はくるくると変わり、あまり笑わなかったのに、今はとても楽しそうに笑う。

『私は“嫌い”をもう作らないことにしたの。“嫌い”なものはずっと“嫌い”でいなきゃダメだから。そうしないと、“嫌い”が薄くなるから。私は“嫌い”を倒す為に忍になるの。かかさまの願いを裏切るの。だから私は“好き”以外はその他しかないの。でも善法寺伊作は“好き”だから。伯母さまたち以外の初めての“好き”だから善法寺伊作を私は助けるの。これは変なのかしら?』

 不意に思い出した言葉。一つ上のくノたまたちに過剰な悪戯を仕掛けられていた伊作を助けた時の沙衣の言葉。

“嫌い”なものは作らない。

 だから彼女が諸々の事柄に嫌悪の表情を見せることは少ない。

 だが、あの時はどうだった?

 表情豊かな声が静かに落ちて、顔の表情も蒼白から無、それから嫌悪に。だから自分は眉をひそめたのだ。心中で沙衣らしくもない、と呟きながら。


「あ、伊作君だー!」

 軽い高い声。
 その声が聞こえた瞬間。

 今までの思考は靄の奥に押しやられ、伊作の瞼がとろりと重たげに伏せられ、開く。

「心愛さん! どうしたんですか? 今の時間は夕食の仕込みでしょう?」
「えへへ。伊作君がトイペ背負ったまま突っ立ってるんだもん。不思議に思ってつい声かけちゃった。手伝ってあげようか?」
 にこにこと笑顔でそう言う心愛に伊作は驚いたように目を瞠る。そしてぶんぶんと目の前で手を振って答える。
「そんな! 心愛さんに迷惑なんてかけられませんよ。不運ですけど仕事はちゃんとやり遂げますよ」
 それに対し心愛はこてりと首を傾げ、残念そうに眉尻を下げる。次の瞬間にはぱっと表情が変わるのだが。
「そぉう? あ、今日ね、私ね、くノ一教室の授業見学するんだよ~。学園長先生が一回見てみるのはどうだ、って」
「何の授業なんですか?」
「火縄銃!」
 実はここに来てから武器って見てないのよね! と、彼女は笑いながら答える。普段であればそれは不穏な言葉として学園長に注進して然るべきだが今の“彼ら”にはそんなことカケラも思い浮かぶはずもない。
「じゃあ、沙衣の腕前を見てみるといいですよ。彼女の火縄銃の腕前は生徒の中でも群を抜いていますから」
「沙衣ちゃんが? みんな結構沙衣ちゃんのこと話すのよね」
 ちょっと不満げに心愛が言う。そうでしょうか、と伊作は答え、そうして、ああ、と彼は頷いた。
「沙衣は正義感が強くて面倒見の良い奴ですから。あと四姫の中でも実力は随一ですし」
「四姫、って沙衣ちゃんと美ぃちゃんと弥白ちゃんと皐月ちゃんだよね。四姫がどういうものかは良く知らないけど」
「ああ、四姫はですね―――――」


 沙衣は屋根の上からそれを見下ろす。

 先ほどから伊作の視線を感じていたが、とりあえず無視しどんな風に天女にアレを渡そうかと考える。そうして聞こえてきた声。秘境育ちで耳も目も勘も良い沙衣はそれを聞き取り、それを目にし、嫌悪に眉をひそめる。

「“嫌い”だわ。あの女……私たちの大事なものを全部取っていく……。三郎、早々に決着をつけましょうか」

 音もなく現れた後輩に沙衣は静かにそう言った。
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