三年再会編。

[1回]

四月。
桜が満開の中、中等部の新入生たちが門をくぐる。

次屋三之助は『昔』を知る新入生に腕を引かれ大川学園に足を踏み入れた。

その背後でざわざわとざわめきが聞こえ、三之助は振り返る。門の前に明らかに高級車だと分かる黒塗りの車が止まっている。

運転手が出てきて、後部座席のドアを開けた。中から現れた少年を二人は唖然と見つめた。『昔』と変わらず首に赤い蝮を巻いた少年を。

「孫兵」
口からぽろりと零れた言葉を少年は耳聡く聞きつけそちらを向いた。
おや、と言うように目を瞠ると口を開く。
「次屋三之助で合ってるのかな？僕の名前が分かるってことは君もだろう？」
近づいて、孫兵はにこりと微笑んだ。
「おう」
「久しぶり。三之助」
「久しぶり。孫兵」
三之助と一緒にいた新入生は、孫兵に任せるようにいつの間にかいなくなっていた。
「作兵衛や左門は？藤内と数馬も」
「俺は会ってない」
「そうなんだ」
じゃあ保護者を僕がしなくちゃいけないのか。と孫兵は苦い顔をする。これを止められる自信はかけらもない。

と。

「作ちゃん今のリムジンだよ。すごーい」
「あの学園長の知り合いでも来たんじゃねーの？裏市長じゃん」
「あはは。確かに！うわっ」
「………何もないとこで転ぶなよ、数」
「ごめぇん…」

三之助は目を丸くして孫兵の後ろを見、孫兵はゆったりとした動作で振り返る。
自分たちと同じ学ランを着た少年がセーラー服を着た少女の腕を取って転けるのを阻止したようだ。少年がふと顔を上げ、「あ」と口を丸く開けた。

「三之助、孫兵？」

「作兵衛。久しぶり」
孫兵が手を振ると、首の蝮が鎌首をもたげた。
「作ちゃん、ジュンコもいる」
少女が目を丸くして言う。その面立ちは『昔』の友人と似ていて孫兵も三之助も間の抜けた顔で彼女を見た。
「………数馬？」
恐る恐ると孫兵が名前を呟くと、少女はぱっと笑顔で答えた。
「そうだよー。三反田数でーす」

秋に学園を見学に来た際、サラストで火薬に関しては学園一だった立花先輩が見目麗しい美少女に生まれ変わっていたのだから、数馬が女の子になっていることだって有り得るのだ。

そう言えば他の先輩方には会わなかったな、と三之助は思った。

そしてこいつらにも。
見学期間が何日間か設けられていたから他の日にちだったのかもしれない。

｢あと左門と藤内がいたら完璧だね｣
孫兵がジュンコを撫でながら言うと数が頷く。
｢見学の時見なかったから…ここを受けているのかも、私たちみたいに生まれ変わっているのかも分からないけど｣
しんみりと呟いたとき、
｢左門！ドアを開けて出ちゃいけません！｣
｢でも、ドアを開けないと降りれないぞ？｣
聞き覚えのある名前と声に全員がそちらを向いた。