うわ、何でいるの。

沙衣は愛銃のヒナコを抱えて、山本シナの隣に立つ少女を見つめた。

[1回]

　ダァンッ！

　的の真ん中に弾が命中し、素早く弾を込めなおして狙いを定め再び音と共に弾は最初の穴へと吸い込まれ、それを後二、三度繰り返して沙衣は悠々と脇に下がる。

　くノ一教室、上級生の射撃授業である。
　沙衣はくノたま一の射撃名手。学園一と言っても過言ではない、と周りは言う。

　採点表を持つ山本シナ先生がニコリと微笑んだ。
「さすが霧壺さん。良いですか、みなさん。このように無駄な動きがない撃ち方を心得てください」
「沙衣ちゃんすごーい！！」

　周りの控えめな歓声の中、心愛の一際大きな歓声に沙衣は不機嫌な顔もせずに微笑む。

「んっふっふ～♪　射撃は得意中の得意なのよ。このくらい当然！　あいてっ」
　出席簿の背で頭を叩かれ沙衣は隣に立つシナを見上げた。
「霧壺さん。慢心は」
「身を滅ぼす。精進いたします。山本シナ先生」
　左肩に抱えた愛銃のヒナコを支えながら沙衣は深々と一礼した。

天女様の見学。

　列に戻る際に、美也の呆れた表情や弥白や皐月の苦笑、小雪や香波が笑顔で手を振り、志帆や汐琉のキラキラした眼差しを受け沙衣的には大満足だった。いつも注目され、ちやほやとされている天女は脇に追いやられただ授業を見学している。

　そもそもの発端は何だったのか、沙衣もよくは知らない。どうせ学園長の思いつきなのだろう。
　気づけば心愛はくノ一教室の授業見学をする手筈となっていた。

「大人しく、隅で見ていてください」

　シナの怖い笑顔に心愛はこくこくと頷き、今も隅から歓声を送った。

　食堂の手伝いしないわけ。良い御身分ね。

　銃声が一斉に響き、四列に並んだ少女たちの火縄銃が火を噴いた。的に当たる者もいれば、かする者もいるし、当たらない者もいる。ど真ん中を撃ち抜ける少女たちは今の所いない。

「美ぃはちょっと銃口下向いてる。弥白ちゃんは反動に耐えれてないな。さっちゃんはもうちょっと銃口下、こゆもかなあ」
「沙衣ちゃん沙衣ちゃん」
「何でしょうか心愛さん」
「そんなの分かるの？」
　いつの間にかそばに寄ってきた心愛に沙衣は心の中で嫌な顔をしつつ、表ではニコリと微笑んだ。
「見てれば分かります。で、シナ先生が怖いお顔でこちらを見ていらっしゃるのでちょっと抜けましょう。先生、ご不浄に行ってまいります」
「できれば…授業開始前に行ってほしかったわね」
「申し訳ございません。ヒナコは置いていきますのでー」
「分かりました。できるだけ急いで戻ってきてください。あなたは後で講習をしなければならないんですからね」
「……はーい」
　シナの言葉に、ぅげ。と苦虫を百匹噛み潰したような顔をして沙衣は返事をする。
「嫌そうな顔をしない。これも教職の一環ですよ」
「分かってますよぅ。火縄銃は教えるの苦手なんですよねええええ……」
　自分が難なくできてしまうものだから。
　沙衣は心愛の手を引いて射撃場を後にする。



　ま、態々見学に来てくれたから手間が省けるってもんだけど。