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名前とか表記とか性別が変わってる人。
綾部喜八郎→綾部喜八瑠(きはる)♀
久々知兵助→久々知氷華(ひょうか)♀
平滝夜叉丸→平滝姫♀
田村三木ヱ門→田村三希♀
黒門伝七→黒門奈々♀
浦風藤内→浦風藤内♀
不破雷蔵→不破雷春(らいは)♀氷華はらいと呼ぶ。
二廓伊助→二廓伊紗(いすず)♀
斉藤タカ丸→斉藤隆丸
バレンタインデー。
それは乙女たちの戦争である。
さて。
バレンタインデーである。
日曜日だ。
「滝姫と三希には渡したし。奈々にも上げた。立花先輩にも兵太夫にも上げた。藤内は昨日渡して一緒にお買い物したし。あとは隆丸さんか」
じゃあちょっと行ってくるかな。
喜八瑠は立ち上がる。滝と三木からもチョコレートを預かっているしなあ、と。
ちなみに滝も三希も本日はデートである。
「隆丸さんは忙しいだろうなあ。お休みは基本的にお手伝いらしいし。明日でも良いかな」
でも明日じゃ意味ないか。うん。やっぱり行こう。
エントランスホールに降りると、ボリュームのある黒い髪が目の前に見えた。
あれは。
「久々知先輩」
呼ばれて氷華は振り返る。振り返った先には元穴掘り小僧の綾部喜八瑠。春には思い切り被害を受けたなあと思い、「おはよう」と挨拶をする。
「おはようございます。おでかけですか」
「うん。綾部、お前も?」
「隆丸さんにチョコを渡しに」
「私もだ。伊紗にも頼まれてるんだ。勘ちゃんの方も、らいに頼まれて」
「じゃあ、隆丸さんの所まで一緒に行きますか?」
そうだな。と頷きかけた所で氷華は思いとどまる。
そういえば年上の後輩はこの子と付き合っていたよーな気がする…。相も変わらずこの綾部喜八瑠は浦風藤内にべったりだからすぐ忘れてしまうが。
「……止めておこう。私はまっすぐ勘ちゃんの所に行くことにする。と、言うわけで綾部。頼まれろ」
「何を」
「私とらいと伊紗の分。頼むな」
押し付けられた紙袋と、珍しく爽やかに笑って去った一つ上の先輩を、喜八瑠は唖然としてその姿を見送った。
「……ま、良いか」
てくてくと大川学園前駅まで歩いていく。
南口の方のバス停から、隆丸の家である美容室Y'sまでバス停四つ分ほど。
10分位で商店長屋(停留所名)に到着する。そこから歩いて1分。
今日も美容室Y'sは繁盛しているようで、待合席に座っている女性客が何人かいて、カットやパーマ、カラーなどをされている女性客、忙しく動いているスタイリスト達が前面ガラス張りの正面から見える。その奥に箒で髪を掃いている隆丸の姿が見えた。
……やっぱり、忙しそうだなー。
手に持った紙袋を持ち上げ、忙しく動いている隆丸と交互に見比べた。
幸隆が女性客に最後の仕上げのブローをしていると、正面のガラス越しに息子の恋人が目に入る。手に持った紙袋と奥で箒を掃いている息子とを交互に見ている。
ああ、今日はバレンタインだったなー。
「隆丸」
「はい、先生」
「表にお前の客が来ているぞ。ここは良いから行っておいで」
「客?」
隆丸の視線が表に向く。途端、喜色満面に表に飛び出していた。
「隆丸君も青春してますねー」
「そーれにしても、あの子めっちゃレベル高いなー」
スタイリストが二人ガラス越しに表を見る。にこにこと笑顔の隆丸と無表情の喜八瑠が何事か話し、紙袋を手渡される。
「えー? 隆丸君彼女いるんですかー?」
狙ってたのにざんねーん。と女性客が笑う。
「そうなんですよ。幼い頃からの知り合いでね。いつも手紙を欠かさず出し合っていたんですよ。ここ二年ほどはメールが多かったかな」
「でも付き合い始めたのはここ一年くらいですよねー」
「そうみたいだねぇ。隆丸は午後から空いていたよね」
「はい。今日は午前中だけのお手伝いです」
「そう。なら良いか」
「先生楽しそうですね」
「うわぁ! 喜八瑠ちゃんなんでいるの!?」
「おはようございます。バレンタインデーなので、私と滝姫と三希と久々知先輩と二廓のチョコレート持ってきました」
渡された紙袋を覗き込むと、五つのチョコレートが収まっている。
「どれが喜八瑠ちゃんの?」
「私のは黒い包装紙のです。滝姫のが赤で、三希のが緑の。久々知先輩と二廓のはどっちか分かりませんけど」
「ありがとう! 俺すっごい嬉しい!!」
にこにこと満面の笑みで言われて、喜八瑠の頬に少し熱が上る。
「あの、」
隆丸の袖を掴んで口を開くと、優しい笑みと共に隆丸が問い返す。
「なぁに?」
「もし、これからお暇でしたらお昼、一緒にいかがですか」
喜八瑠の誘いに一瞬目を丸くすると、隆丸は大きく頷いて笑みをこぼす。
「行く行く!! 喜八瑠ちゃんから誘われるの滅多にないもんね! 俺昼から空いてるから、一緒に行こう。美味しい所知ってるんだぁ。あ、でも。ちょっと家の方上がってて。はいカギ。俺の部屋行ってて~」
お茶とか勝手に飲んでていいから~。
渡されたカギを手に、先程まで袖を掴んでいた手をグーパーしながら「ちょっと恥ずかしかった」と喜八瑠は呟いた。
これでおしまい。
中途半端?
チョコを渡しに行くお話だからこれでいいのだ。
気が向けばこの後の話も書こうかなあ。
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