ちょっとポッキーの日っぽいことを。

五年で。
というか、勘くく・鉢雷で。

[0回]

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昼休み。喧騒にざわめく高等部二年二組の教室。
すっ、と三郎が唐突に赤い箱を掲げた。

｢ここにポッキーがあります｣

｢あ、いーなー。鉢屋頂戴｣
勘右衛門が箱に手を伸ばすと、三郎はひょいとその手をかわす。
｢説明を聞け、説明を｣
｢いや、今日の日付見たら大体の事情は察するし｣
頬杖をついて険しい視線を向ける三郎に勘右衛門は呆れた表情を向けた。

｢きょう？11月11日…｣
氷華と雑誌を読んでいた雷春がこて、と首を傾げる。
｢ポッキーの日だろ。三郎…｣
｢あぁ、それにかこつけてポッキーゲームをらいとしようって魂胆…｣
八左ヱ門と氷華も共に呆れた表情を浮かべた。
｢べっ、別にいいじゃないかっ！なっ、らぁ？｣

｢絶対に嫌｣

心が癒されるほどの柔らかで穏やかな笑みを浮かべて、雷春はドスの利いた声を出す。そのアンバランスさがものすごく怖い。

｢らぁ…っ｣

涙を浮かべる三郎から、勘右衛門はひょいとポッキーの箱を取る。
封を切り、ポッキーを一本取ると、にこりと笑みを浮かべて氷華に向き直った。

｢ひーちゃん、やろー｣
氷華は顎に人差し指を添えてちょっと考える仕草を取り、頷く。
｢良いよ。私が勝ったら豆腐料理作ってきて｣
｢オッケー。じゃあ俺が勝ったらひーちゃん泊まりね｣
｢うん｣

｢ちょっ、そこナチュラルに何の約束してんの！？ていうか、俺には馬鹿かみたいな視線向けたくせに何お前ら始めようとしてるわけ！？｣
三郎が涙を拳で拭いながら喚く。ほえほえと笑みを浮かべて勘右衛門はポッキーを振った。
｢鉢屋だと下心ありすぎてさぁ｣
｢いやいやいやいや！お前も下心ありありだろ！？何だよさっきの！！｣
｢なぁに？羨ましいの？｣
にやにやと一転して愉しげな笑みに変えて、氷華を抱き寄せる。
｢ひーちゃんは嫌がんないもん｣
｢嫌なときは嫌って言うけど。勘ちゃん基本的に私が嫌がることしないし｣
ねー、と二人は顔を見合わせて笑う。

｢……っ！らぁっ！｣

｢しないってば｣
びゅおぅっ！と雷春の背後で吹雪が舞う。

｢チョコの方はひーちゃんね｣
｢ん｣
｢さー、どっちが勝つかなー｣
｢……八左ヱ門、じっと見られると恥ずかしいんだけど｣
｢あはは。ひーちゃんってばぁ。はっちゃん見ないでね｣
｢殺気飛ばすなって、勘ちゃん｣

和気藹々とポッキーゲームを始める二人を横目に、フルフルと震えていた三郎はぐっと拳を握る。
｢お前らなんか嫌いだ馬鹿ーっ！！｣
と、教室を飛び出す。

ポリポリ…ちゅ。

｢はい。俺の勝ち｣
｢ん｣
照れもなくやってのけた二人につまんなそうな目を向けて、八左ヱ門は廊下を指す。
｢……完璧に無視してたなおい｣
｢俺らが追っても無意味じゃん。ねぇ？｣
｢うん。ここはらいの役目｣

｢え…。らぁが行くの？｣
心底面倒臭そうに雷春は三人を見回す。三人が頷くと、ため息をつきながらも立ち上がる。
｢行ってもゲームをする気はないよ｣
｢良いよ。今は迎えに来てもらうのが多分、鉢屋にとって重要かな｣
はい、と勘右衛門はポッキーを一袋差し出す。
｢だから、ゲームは｣
｢元々鉢屋のだし。残りは美味しく頂くから、鉢屋に返しといて。そろそろ予鈴だしね｣
雷春が教室の時計を見上げると、なるほどあと五分ほどで予鈴が鳴る。
｢遠くに行ってなければ良いけど｣
｢らいも迷わないでね｣
｢…………気を付ける｣
氷華の言葉に唸りながらそう答えると、八左ヱ門が満面の笑みで口を開く。
｢遅刻したら良い感じに言い訳しといてやるよ｣
｢……ありがとー…｣
ぱたぱたと足音をたてて雷春は教室を出る。

それを見送り、勘右衛門はおもむろにポッキーを一本取りだし、真剣な面持ちで口を開く。
｢戻ってこないにポッキー一本｣
｢やっす！！でも俺も同じく｣
｢私もー｣
ポリポリとポッキーを食べながら二人が同意する。



結局五限は三郎も雷春もサボりだったらしい。
さらに、六限開始前に帰ってきたのは雷春だけで、三郎は放課後に後輩によって発見される。全身打撲擦り傷などの重軽傷を負いながらも、その顔はどこか幸せそうだったとか。