勘ちゃん。

大川学園中等部の合格発表の日。

[1回]

｢ふーん。へーちゃ…じゃない…ひーちゃんは寮なんだー｣
　今生も名前が尾浜勘右衛門である俺がそう言うと、女の子として生まれ変わった久々知兵助こと久々知氷華ちゃんは頷いた。前はへーちゃんだったから今はひーちゃん。

　長い黒髪は相変わらずで、緩い癖毛も相変わらず。大きな目も、長いまつげも白い肌も何もかも。
　ただ変わったのは女の子らしい服を着ているとか声、それに名前や性別くらいかな。
　申し分なし。
　俺は笑みを深めた。


｢勘ちゃんは？｣
　問われて俺は答える。
｢俺は家から。自転車で三十分くらい｣
　そうなんだぁとひーちゃんは僕の背後をチラチラと見る。原因は分かってる。

｢照姉、何勝手に写メってんの？｣

　今日は私立大川学園中等部の合格発表で、忙しい母さんの代わりに暇な照姉を連れてきてたんだけど。諸々の手続きのために。今年十九歳。
　あ、照姉は『昔』北石照代っていうくノ一で学園に教育実習に来てたり、または敵対勢力にパートしていたりなど見かける確率は高かった人だ。へーちゃ…じゃない…ひーちゃんはなぜ照姉がいるのかが不思議なんだろう。


｢ひーちゃんは初めて会うよね。(こっちじゃ)俺の姉で照代お姉ちゃんこと照姉｣
｢初めまして～。尾浜照代です。勘右にこんな美少女が友達に居たなんて初耳だわ｣
　まつげながーい肌しろーい！と騒ぐ照姉を俺は呆れて眺めるしかない。
｢そりゃ言ってないし｣

　会ったのも今生じゃ初めてさ。

　大好きなへーちゃん。
　君が君のまま存在していてくれて俺はとても嬉しいよ。

　今度はね、負けないから。


　うん。
　四月が楽しみ。


　溢れ返る人混みの中で、他にも再会を分かち合う友がいるのも気付かずに、俺はひーちゃんに会えたことに非常に満足していた。




兄弟設定その一。
照代さんと勘ちゃん。
照代さんは全く覚えてない組。

勘ちゃんは貴重な全部覚えている組。

兵助は全部じゃないけど殆ど覚えてる組。