絶対に金輪際、逢う気もなかったのに…！


勘ちゃん。小四。

[1回]

げ。

絶対俺はものすごく厭そうな顔でこの人を見ているのだろう。
その人は困ったように笑ってる。
照姉…っ！早く来い…っ！


...


俺は尾浜勘右衛門。

小学四年生につき十歳。

名前はじーちゃんが｢これじゃあっ！！｣と高らかに宣言してつけたらしい。
思い付きだそーだ。

良いけどね。

『昔』と同じ名前と記憶を持った俺。

聞き覚えのある名称の街。
大川って。

見覚えのある顔。

えーと、北石照代さんでしたっけ？俺の六つ上の姉貴ってどーゆーことですか？
しかも昔の記憶は無いようなので、本人かどうかは確かめようがないけど。

それから私立大川学園。
照姉が通っている中高併設の学園。制服が可愛いのと進学率の良さから選んだらしい。
学園理事の名前は大川平次渦正…あー、じゃあ俺も入るかな。
頭は良い方だし。照姉曰く大川市では一種のステータスらしい。
どちらにしろ、偏差値は高いのでステータス云々なく大川市の子どもは大抵通う。中等部は無理でも高等部からとか。照姉は中等部からの生徒で今高等部の一年生。


それにさ。

会えそうでしょ？

へーちゃんに。



ちなみに俺の家は豆腐屋だった。何だこの狙ったような家業！！良いけどね。良いけどね！へーちゃん招く口実できるしさ！！


そういうわけで、親は忙しい。

今日は小学校の振替休日で休み。照姉は学校。
四年生の俺はテレビゲームをしながら午前中を過ごす予定だ。

と、家の古めかしい黒電話が鳴る。
ジリリン、ジリリン、と。

嫌ぁな予感がしつつ受話器を取ると、案の定、照姉の非常に焦った声。

｢あ！勘右衛門！？｣
｢…ただいま留守にしております。ご用の方は｣
｢うちに留守電なんてついてないでしょ！？｣
冷静に突っ込んでくる照姉に舌打ち。
｢…ちっ、何照姉。忘れ物でもしたの。｣
ぱっと照姉の声色が明るくなる。
｢さっすが勘右。おねーさまの部屋のベッドの上に体操服一式｣
｢誰かに借りればいーじゃん｣
学園には今の所嫌な予感しかないから近づきたくないんだよね。
｢今日は一、四組だけなのよ。借りれないじゃない｣
照姉は一年一組に在籍。高校は二クラスずつ体育を受けるんだって姉が言ってたな。……………基本的には優しい自分の性格が嫌になる。
｢二クラスずつ受けるんだっけ。しょうがないなぁもう。あとで何かお菓子奢れよなー｣


そう、届けようと思ったのが間違い。


...


大川学園の正門を潜って右側に。右は高等部。左は中等部だ。

昇降口で靴を脱いだところで声をかけられた。とても聞き覚えがあって、永遠に聞きたくなかった、声。

｢どこの子だ？この時間は学校だろう｣

そういうアンタも授業中じゃねーの？

下を向いていた視線をゆっくりとあげる。案の定の見知った顔に蛙を引き潰したような声をあげる。
高等部の制服を着た男。

今生一番会いたくない奴…！


驚いた表情を浮かべ、その人は問う。

｢…尾浜、勘右衛門か？｣

俺は否定する理由もないから小さくうなずく。

｢…………お久しぶりです。何百年ぶりですかね、土井先生｣


アンタとは一生、金輪際会いたくなかったよ。

くっそぅ、嫌な予感はこれか。恨むぜ照姉！！





尾浜豆腐店。
地元の人に愛されて三百年。大川忍坂商店街の老舗。
元は別の場所にあったのを江戸時代に移転。


尾浜勘右衛門＆照代姉弟。
高一と小四。
一年が大川学園に入った時には二十三と高二。

土井半助。
高三。
一年が…以下略の時には二十五。中等部一年三組担任。弟がいる。






表紙描きが終わらない…。