医務室で怪我を治療してもらいながら饗されたお茶で何かが起こったようです。

[0回]

　みしみしと軋む骨や繊維の音、白く立ち昇る煙を見ながら、乱太郎は隣にいる保健委員長の善法寺伊作を不安そうに見上げた。

「伊作先輩……」
「乱太郎、これは仕方がないことなんだ……。そう、皆誰かの犠牲によって生きてきているのだから」
「……伊作先輩。私は、五年い組学級委員長の尾浜勘右衛門先輩と、火薬委員長代理の久々知兵助先輩のことは、一生忘れません……！」
「うん。僕たちは、知っておこう。彼らと言う、勇敢な犠牲があったということを……」
　きらきらと二人の周りに光が舞う。美しい先輩後輩愛を祝福するように……。


「ちょっと待て―――――――――――――！！！！」
「そこで締めるなんて話が始まってすらもいないし！」

「あ、尾浜先輩。久々知先輩。生きてらっしゃったんですね！」
　乱太郎が喜び勇んで飛びつくと、何だかんだいって下級生に甘い二人はなでなでと彼の頭をなでた。あれ？　何か柔らかいな。と乱太郎はふとそう思ったが、死んだかと思ってしまった先輩たちがこんなに元気に叫んでいるのを心から嬉しいと思い、そんな些細な事実を無視した。

「えーと、あの失敗作を飲んで、まず、体から煙が上がり、骨や筋肉が軋む……結果」
　伊作が症状を書きとめた料紙を読み上げる。

「「「結果」」」

　にこりと伊作は笑う。

「女の子になっちゃうってことだね」

「「「え？」」」

　勘右衛門、兵助は自分の体を。乱太郎は二人の体をしげしげと眺める。

　勘右衛門は小振りながら、兵助はその存在を主張するように、女性にあるはずのふくらみがしっかりと出来ていた。

「「！？」」
「……女の人になっちゃうものだったんですね…」
「骨格もばっちり女の子だね。ぱっと見た感じ。立ってもらったら骨盤の形も大体分かるけど。ま、どう見ても女の子。これ…留三郎たちに使ったら面白そうだよねえ」
　急須の中にまだ残っている、失敗作の薬草茶を掲げ、にやりと伊作は笑んだ。

「そんなこと言ってるバヤイですか！？　どうやったら戻るんです！！」
「あー、やっばいよ。へーちゃん。次実技の授業だよ……」
「あぁ、女装だろう。町に出て……」

　二人は顔を見合わせた。

「うっわ。女装する必要もないよ」
「確かに……どっからどう見ても女じゃな……」
「よかったですねえ」
　のほほんと乱太郎が笑う。なでなでと頭をなでながら勘右衛門が苦笑した。
「然して良くもないよ。乱太郎。今回は女装で済むけど、組み手とかだったら即バレるし、体力もないしリーチも短い。で、善法寺先輩。どうやったら元に戻れるんですか」
　そう勘右衛門が問うと、伊作はきょとんと視線を彼に向ける。

「ないよ。そんなの。言っただろう？　これは失敗作。解毒剤なんてあるわけがない」
　一日だけか、もしかすると永遠にそのままか。ちゃんと記録とらせてね。
　楽しそうに笑いかけられて、二人は深々とため息をついた。

「それにしてもこんな効果があるなんて、失敗作とは言え、僕ってばすごいねえ」
「もう早く解毒剤作ってください」
「うん、それはね。ほら、早く実習行ってきなよ」
　伊作の言葉に渋々と二人は頷いて医務室を出る。出て行った二人を見送りながら、伊作はにやりとほくそ笑んだ。彼の指が伸びた先には、小さな薬包。

「伊作先輩？」
「実はねぇ、乱太郎。解毒剤、あるんだよねえ」
「何で黙ってたんですか？」
「それはね、面白そうだからだよ」

　くすくすと笑う伊作は、悪戯好きな年相応の少年の表情。

「波乱万丈なトラブルが起きるのはこの学園の常識だから。このくらいの悪戯は目を瞑ってもらってもいいよね」
「……伊作先輩…まさか……」
「んっふっふ。それは想像に任せるよー」

　五年い組の二人の受難は始まったばかりのようです。

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　続かない。
　続かないんです。