氷華と伊紗ちゃん。
マフラーの話。

一月くらいに書いてたのに載せてなかったなあと。

[0回]

　二郭伊紗は寮に戻って来た高等部二年の久々知氷華を見て、おや？　と首を傾げた。
「久々知先輩、マフラー見つかったんですか？」
　ここ数日、マフラーをどこかに置き忘れたか何かで氷華の首には何も巻かれておらず、もちろん今朝も巻かれていなかったが、今は以前と同じオフホワイトのマフラーをくるりと首に巻いている。そして伊紗は氷華の返事を聞く前に口を開いた。
「あ、でも前のと違いますね。白でフリンジが付いてるけど、編み模様が違うし…」
　ひらひらと揺れるマフラーの端をしっかと掴んで隅にいるは●なり豆腐の模様を凝視する。
「はん●り豆腐はいませんでしたもんね！」
　伊紗の言葉に氷華は鷹揚に頷いた。
「……よく気付いたのだ、伊紗。マフラーはあの後見つかっていない」
「は●なり豆腐のマフラーとか売ってあるんですねー」
「売ってない」
「…てことは…手作りですか？」
　こくり、と氷華は頷いた。
「そう。勘ちゃんの手作り」
「……尾浜、勘右衛門先輩ですか…？」
　ぱちくりと伊紗は瞳を瞬かせた。
「勘ちゃん器用だから。失くしたって言ったら『今ばーちゃんと空前の編み物ブームだから作ってあげるよー。どんなのがいい？』って言ってくれたから作ってもらったの」
「…あぁ…そういえば『昔』もよく久々知先輩の制服を繕ったりされてましたね」
　ついでにやったげよーか？　と『昔』兵助の制服を繕っていた勘右衛門に枝に引っ掛けた部分を伊助が繕ってもらったことを思い出ながら伊紗は言った。
「うん。『昔』と変わらず器用だよ」
「そうなんですね…確かに編目がすごく綺麗です」
「手袋もね、はん●り豆腐仕様なんだよ」
　ミトンタイプのピンクの手袋を見せられるが、手の甲の薬指の辺りに梅の花の模様が一輪編みこまれているだけで伊紗にはよく分からない。
「？」
「手の甲側はちょっと濃い目のピンクで手のひらの方は薄いピンクで。梅の花を編みこんでもらって、う●豆腐になってるのだ」
　嬉しそうに氷華が言い、伊紗は委員会に入った頃に見せてもらったは●なり豆腐の絵本にあった登場豆腐たちを思い起こす。そういえば、そんな豆腐もいたような気がする。はん●り豆腐といえば、頭の部分がオレンジでオレンジ色の花飾りをつけてる豆腐しか思い出せない。それが何豆腐という名前なのかも定かではない。ただ、は●なり豆腐＝その豆腐という公式でしか伊紗は覚えていないのだ。
「…そうなんですね…。えー…と、せっかく尾浜先輩が作ってくださったのなら今度は失くさないようにしないとですね」
「うん。今度はちゃんと気をつけるよ。勘ちゃんが作ってくれた世界でひとつだけしかない私の、だからな！」
　マフラーをぎゅっと頬に押し付けると、晴れやかに氷華は笑う。そして、着替えるから、と部屋に向かう氷華を見送りながら「私、今惚気けられた？」と伊紗はぽつりと呟いた。