いや、だって、すこしは。


期待してしまうから。

落胆も大きいわけで。

[1回]

褥の上でゴロゴロと勘右衛門が寛いでいると、そーっと障子が開けられて、同室の久々知兵助が入ってくる。
「おかえり、へーちゃん。遅かったねー」
手にしていた春画本から視線を上げずにいたら、兵助が春画本を取り上げて勘右衛門の前に座る。

「勘ちゃん、大事な話があるのだ」
「どうしたの？へーちゃんったら改まっちゃって」
胸元を押さえ込んで、何かもじもじする兵助を勘右衛門は不思議そうに眺める。大きく深呼吸して、兵助は意を決したように、袷に手をかけて前を広げた。
そして、あるはずのないものを確認した勘右衛門は丸い目をさらにまぁるく見開いた。

「俺っ、実は女なんだ！」


衝撃の告白に驚きに上がる声はなく、その反応を不思議に思いつつ、兵助は固く瞑っていた瞳をゆっくり開いた。当の勘右衛門は兵助の胸にある、手のひらにすっぽり覆われる程度の膨らみをしげしげと眺めている。勘右衛門に声をかけた。

「………勘ちゃん？」

声をかけると同時に、勘右衛門がおもむろに兵助の胸の膨らみに触れてそのまま押し倒した。
「かかかかかかかかかか勘ちゃんっ！？！？！？」
思わぬ行動に目を白黒させる兵助に、覆い被さった勘右衛門はにぃやりと笑みを浮かべる。
「見た目は上々。だけど触れたら一発だよ、へーちゃん」
「ふぎゃっ！？」
男の象徴を思いきり握られて兵助の声は裏返り、勘右衛門はにやにやと笑みを深めた。そうしてちらりと天井に視線を向け、兵助の頬に手を添えた。
「へーちゃん。鉢屋にどう乗せられたかしらないけれど、もうちょっとマシな嘘をつこうね？」
俺の自制心がいつまで保てるか分かんないだろう？
にこにこと笑顔で兵助にそう言いながら、手持ちの苦無と手裏剣を全て天井に投げ付ける。攻撃してきたぁっ！という悲鳴と共にぼとぼととろ組の三人が落ちてきた。もちろん、落下地点から勘右衛門と兵助は退避している。

「じゃあ今から制裁な☆」

仁王立ちで、兵助の私物から漁った苦無と手裏剣、焙烙火矢を構える勘右衛門を見て、三人の顔面からさーっと血の気が引く音がする。
「待て、早まるな勘ちゃん！」
「悪いのは三郎！僕たちは無実だよ！！」
「酷い…っ雷蔵も八左ヱ門も楽しそうって言ったじゃないか！私にばかり押し付けるなぁっ！！」


「連帯責任ってことでいいよね」

勘右衛門の打った手裏剣が八左ヱ門の頬をかする。つーっと流れる赤い滴に双忍が息を呑む。勘右衛門は本気だと。

「次は当てるからね」

その宣言と共に三人はい組の部屋を飛び出して脱兎のごとく逃げる。それを夜着のまま追いかける勘右衛門。呆然としたまま四人を見送る兵助。


嘘をつくときは相手と嘘の種類を考えようってこと。



だって、少しは期待してしまったんだから。

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エイプリルフールネタ。
よくある話で。