＋αというか蛇足。
オリキャラ三人ほど出張ります。
美容室のスタッフ三人。

[0回]

　喜八瑠が眠ったのを見計らって隆丸はベッドから抜けだそうとした。別にこのまま眠ってしまってもいいのだが…気持ち良さそうに眠っているのを起こすのもしのびない…、しかし大人組…というかスタッフ三人組が翌日うるさそうなのでもう一度酒席に戻って面倒を回避したい所である。それに部屋の前のあの気配…。ベッドを出ようとした所で服の裾を引かれた。振り返るとぱっちりと目を開いた喜八瑠がじーっとこちらを見ている。
「……喜八瑠ちゃん？」
「どこにいくんですか？」
「リビングに戻ろうかと思ったんだけど…」
「らめ、れす」
　体を起こした喜八瑠が隆丸に抱きついた。こちらもアルコールを摂取して色々と自制するのが難しい所だというのにこの子は…！　とか何とか思いつつ、隆丸は喜八瑠の背中を落ち着かせるように叩いた。
「喜八瑠ちゃん。いい子だから寝ようね？　僕はちょっとあっちの始末をしないと」
「やー、れす。たかまるさんもいっしょにねてくらさい」
「…………」
　酔ってトロンとした表情とか呂律が回らなくなっている所とか密着している柔らかい感触だとか、本当に色々とヤバイ。かと言ってドアの向こうの気配に良いように聞かれるのもすごく嫌だ。ヘタレと言うなかれ。これは逃げじゃない。自分や彼女のプライベートを守るためでもあるのだ。
「喜八瑠ちゃん、ごめんね」
「？」
　ぱちりと大きな瞳がゆっくりと瞬く間に、トンと首筋に隆丸の手刀が落ちた。喜八瑠の意識が落ち肢体が力なくくずおれる。喜八瑠を優しく布団の中に戻すと、ドアを思い切りよく内に開いた。ドアに耳をそばだてていた大人三人がドササッと部屋に雪崩込んだ。
「知彰さん、隼人さん、ゆりさん。何してるんですか？」
　にっこりと隆丸は笑うがその笑みは冷ややかである。喜八瑠には絶対見せることがない笑みだ。
　一番古株の朝川知彰は乱れた黒髪を整えて眉をひそめた。
「あー…。隆丸、怒ってるな」
「トモさんタカが超怖いんスけど！？　ゆりのせいだろこれ！！」
　と一見ヤンキーに見える風峰隼人が知彰の後ろに隠れて隆丸を盗み見る。一番下に埋もれていた紅一点の籠目ゆりが巻いた茶色の髪を整えて立ち上がった。
「あら。私の提案に喜々として乗ってきたのは風峰さんでしょう？　目論見は大ハズレ、と言うか…隆丸君が見事に回避した所かしら」
　と、ゆりはころころ笑う。この数時間の間で隆丸の中の“頼れるお姉さん”なゆりの印象が百八十度変わった。しかし普段は本当に頼れるお姉さんなので、飲酒時だけが“自分が面白ければ良い”なのだろうか？　そうだといいな、と隆丸は思う。愛想が良くお調子者の隼人がゆりの提案とやらに喜々として乗ったのは彼女の言うとおりだろう。知彰は表情筋を動かすのが面倒という、ある意味ものぐさな男だが付き合いは良いので二人の後にくっついてきたのだろう。一番の古株で年長者なのだから止めろよ、と隆丸は知彰を見る。意図に気付いたのか、知彰は肩を竦めた。
「一応、俺は止めようとした」
「止めてないっすよ！？　先生と視線交わして首振って何かジェスチャーしてただけじゃないっすかぁッ！！」
　うぇええ！？　と隼人は声を上げるが知彰は頓着せずに続ける。
「俺は止めた方が？　と言ったら先生が行ってお前らを監視しとけと仰られたんだ。覗きをする奴らも大概だけど、酔っぱらった女の子に手を出すのも大概だからねえ、と」
「何それ僕信用ない…」
「あらぁ酔っぱらいは元から信用ないわよぉ」
　床に手をついて落ち込む隆丸にゆりが楽しげに笑いながら言い、知彰はそんな隆丸を立ち上がらせる。
「きはちゃんは寝たようだし、飲み直すぞ」
「「はーい」」
　隼人とゆりが良い子の見本のように手を上げて返事をする。
「え…まだ飲むの？」
「何を言っているまだ宵の口だ」
　酒好きのスタッフらに連れて行かれ、翌日喜八瑠に起こされるまでの記憶は隆丸には一切なかった。