色々ネタ置き場(主にRKRN)。
主に二次創作・夢小説系。ごく稀にオリジナルもあるかもしれない。。。
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+竹孫。
十二月初めの放課後、委員会がある久々知氷華と別れ、尾浜勘右衛門は物理の教科書を片手にお菓子や弁当や漫画が入ったリュックを肩にかけて二年二組の教室に向かう。
「八ちゃーん!」
二組のドアをガラリと開けて、勘右衛門は友人の竹谷八左ヱ門を呼ぶ。まだ何人か残っている生徒がこちらをちらりと一瞥し、一番窓際の後ろの席で呼ばれた八左ヱ門が顔を上げ、向い合って座っていた鉢屋三郎が振り返る。いつも二人といるもう一人、不破雷春もどうやら今日は委員会のようだ。勘右衛門は真っ直ぐ八左ヱ門達がいる席まで行くと、手に持っていた物理の教科書を広げて口を開いた。
「ここ分っかんないんだよね。教えて八ちゃん」
「おう、いいぞ」
快活な笑みを浮かべてスポーツバッグから取り出そうとしていた袋をバッグに押し込みながら八左ヱ門は答える。今生の八左ヱ門は『昔』に比べて非常に頭が良い。自分が転生したから『昔』恋人だった伊賀崎孫兵も転生しているはずだとあらゆる可能性を考慮してひたすら勉学に打ち込んだらしく、学園の入試を彼は主席で合格し、新入生総代も務めたのだ。『昔』は立場が逆だったのになあ、と今も学年上位に名を連ねる勘右衛門はしみじみと思いながら、八左ヱ門の隣の椅子を引っ張ってくる。互いに教え教わる態勢になった所で三郎が女性ファッション誌を捲りながら「なあ」と声を上げる。
「お前ら、クリスマスのプレゼント何にするか決まったか?」
三郎の問いに勘右衛門と八左ヱ門は頷いた。
「俺はこないだひーちゃんが良いなあって見てた服買う」
はーいと手を上げて勘右衛門が言うと、八左ヱ門が「え」と驚いたように勘右衛門を見た。
「勘ちゃん、一人で買いに行くのか?! 勇気あるな!」
「俺は付き合わねぇからな」
先手必勝とばかりに三郎が言う。勘右衛門は「大丈夫だよ。誘わないよー」とけらけらと笑った。
「照姉に付き合ってもらうから大丈夫だってー」
勘右衛門の姉として転生した尾浜照代…元・北石照代(記憶なし)…の名を聞いて、二人は「ああ」と頷いた。流石に男一人で女性服しか売っていない店に入るのは物凄く勇気がいる。勘右衛門はこの時程、女兄弟を持っていて良かったと思ったことはない。三郎はふむふむ頷きながら八左ヱ門に振る。
「じゃあ、ハチは?」
「俺は今準備中」
「「準備中?」」
八左ヱ門の答えに二人が不思議そうに顔を見合わせた。
「おう。これだ」
さっき仕舞い込んだ袋をガサガサとバッグから取り出し、袋の中身を披露した。その途端、二人の表情が凍りつく。
「孫兵の首元にジュンコがいないし、いつも寂しそうにしているからな。少しでも慰めになれば良いなと思ってさー」
優しげな表情で語る姿はとても恋人思いで大変よろしいのだが、如何せん机の上に広げられた物が二人にとっては怖気が走るものであった。いくら、今生が何でも器用にこなして文武両道に優れた人間になるよう努力したとは言え……。
「上手く出来てるだろう? ジュンコ柄マフラー」
少し暗めの赤の地に黒灰色の模様が入ったマフラーは非常に編目も綺麗で、尚且つ柄に崩れも見えない。これが少々雑に仕上げてあれば、「あはは八ちゃん不器用だなあ」などと軽口を叩くくらいは出来るのだが、完成度が高すぎた。お陰で二人は言葉も出ない。漸く勘右衛門がからっからになった口を開く。顔色は真っ青だ。
「……うん。八ちゃん、すっごい上手いね…ジュンコそのものだよ」
「だろう! 編み始めはちゃんと尻尾の形して、編み終わりにはちゃんとジュンコの頭もつくぞ。こう、ぱくっと尻尾を噛んで止めることができるように設計してるんだ!」
にこにこと自慢げに語る八左ヱ門に「そっかー…」と勘右衛門が答える。そんな勘右衛門の肩に三郎がポン、と手を置いた。
「勘右衛門、これは言うべきだ」
「鉢屋…だけど」
逡巡する勘右衛門を置き去りに三郎はビシリと八左ヱ門に人差し指を突き付けた。
「ハチ。正直に言おう。これキモい超重い。大事な事だからもう一度言う。めっちゃキモい重すぎる! 付き合ってる女の子に手編みのマフラー貰うなら兎も角…ていうかそれもちょっと重いけどああでもらぁのならもう喜んで! だが男に! しかもめっちゃ上手過ぎるプロも顔負けとも言えるようなマフラーしかもめっちゃくちゃ難しそうなジュンコ柄!! こんなの貰って引かない奴がいようか!? いやいるまい! 証拠に見てみろ! 勘右衛門及びまだ残ってる奴らも超ドン引いてる顔を!! 絶対伊賀崎もドン引くこと請け合いだ!!」
残っていた他の生徒は三人の視線が向けられるとさっと顔を逸らした。この論争? に関わりたくないらしい。尤もである。
「三郎。孫兵は俺と出逢う為に地上に降りてきた天使なんだ。引くわけないだろう」
「……お前の思考が既にキモかったな…」
「……鉢屋も時々似たようなコト言ってるから人のこと言えないよ」
「「お前に言われたくない」」
八左ヱ門と三郎が異口同音にそう言うと、勘右衛門はきょとんとした後へらりと笑った。
「えー? 俺、天使だとか女神だとか思ったことないけどなー」
その後一頻り、キモい重い、キモくない重くない、の論争が繰り広げられ、委員会を終えて戻って来た雷春によって止められるまで続けられたという。
因みに結果だが。クリスマス当日に嬉しそうに微笑んでジュンコマフラーを巻いた孫兵の写メが三郎と勘右衛門両名に送られ、本文に「孫兵の笑顔とか勿体無いけど証拠として!」と書いてあった。
+++
+タカ綾。
「あぁんもう喜八瑠ちゃんってば可愛いわ~。隆丸君もさすがよねぇ」
顔を真っ赤にして酔っぱらった女性が喜八瑠をぎゅっと抱きしめる。喜八瑠はグラスの中身が零れないよう素早くテーブルの上に置いた。
十二月二十五日のクリスマス。喜八瑠は美容室を営んでいてクリスマス連休で忙しい斉藤家のハウスキーパーとしてこの二日間、家事に勤しんでいた。猫の手も借りたいほどの忙しさの為、雑用係として隆丸も駆り出されることとなっていたのは事前に知っていたので、暇つぶしも兼ねての行動だ。そして無事に二日間乗りきった美容室のスタッフたちが打ち上げ兼クリスマスパーティーと称して美容室の二階にある斉藤家のリビングで予約していたらしいケン○ッキーフライドチキンや寿司にケーキにお菓子、シャンパンなどのアルコール類を大量に持ち込んで騒ぎ始めたのである。
疲れた体にアルコールを入れた店長の幸隆含むスタッフたちはあっという間に出来上がってしまった。黙々とケーキなどを食べていた喜八瑠はスタッフの紅一点である女性スタッフにロックオンされて先程からずっと絡まれている。ちなみに喜八瑠の正面に座る隆丸は自分自身も男性スタッフに絡まれているのと、喜八瑠に絡んでいるのが女性だということで手出ししていないだけなのか、助ける様子は微塵もないようだ。まあいっかと思いながら喜八瑠は女性の好きなようにさせている。
「髪の毛もふわふわさらさらだしいい匂いするし、目もぱっちり二重でまつげも長いし肌もキメ細かくて綺麗だし、手だってすべすべ~。女の子ってこうよね可愛い~」
そしてずいっとなみなみと液体が注がれたグラスを突き付けられる。
「さ、お姉さんと飲もう」
「あの」
「喜八瑠ちゃんは断らないわよね? それとも飲めない?」
「…いえ」
「ウフ。どうせ冬休みだしー、みんなここで雑魚寝ちゃうしー飲んじゃお? 度数そんなないし」
そういう問題でもないのだが、飲まないと場が収まらそうなので喜八瑠はグラスの中身を空ける。
「イイ飲みっぷり! 飲んじゃえ飲んじゃえ♪」
と、また、なみなみとグラスに注がれる。ちらりと女性を見るが目の威圧感が途轍もない。仕方なく、喜八瑠はもう一度グラスを空けた。昔はそれなりに強かったのだから、今生もまあそれなりに強いだろう、と思いながら。
それに気付いたのは大分経ってからで、隆丸は父の幸隆に連れ回された二年間の海外生活で今生の体質が酔い難い体質だった為、こういうスタッフたちが行う飲み会ではよく飲まされていたので今回もいつも通り飲まされていて対処に遅れた。普段は物腰が柔らかな頼れるお姉さん系のスタッフだということと、喜八瑠の顔色が変わっていなかったのも起因していた。
くすくすと笑い合う二人に和むなぁ、と思いながら両脇の男性スタッフに絡まれつつも適当にあしらっていたのだが…気付いた時には遅かった。
カットソーを男らしく脱ぎ捨てた喜八瑠に隆丸は思わず悲鳴を上げた。男性スタッフの目は当然釘付けである。
「ホントだ可愛い~。あ、ちゃんとしっかり固定されてるし、それでその値段って良いね~。私も買お」
女性スタッフが喜八瑠の胸…正確にはブラジャーに触れながら「なるほどねー」と頷いている。隆丸は男性陣の視線から喜八瑠を守るべく慌ててテーブルを回って羽織っていたパーカーを着せてファスナーを上げる。ブーイングを出す男性スタッフらを一睨みし、隆丸は声を荒くした。
「喜八瑠ちゃん何してるの!?」
「え? ブラの話してて見せてるだけですけど」
それがどうかしたのか、と不思議そうに見つめる喜八瑠の目はとろんとして焦点が定まっていない。はっとして喜八瑠の周りを見ると度数が低いアルコールの缶が数本散らばっていて、今も女性スタッフが喜八瑠のグラスに缶の中身を注いでいた。
「何してるんですか」
「え? 喜八瑠ちゃんのグラス空っぽなんだもの」
悪びれもせずに女性スタッフはにっこり笑った。すっとグラスに手を伸ばす喜八瑠の手を掴むと、彼女は不満げに頬を膨らませる。隆丸は「ダメ」と一言言うと喜八瑠を抱え上げた。『昔』は一升程の清酒を飲んでもケロリとしていたのに今生はどうやらそれに比べると大分弱いらしい。
「僕と喜八瑠ちゃんはもう引き揚げるからね!」
そう言うと、幸隆も「そうしなさい」と頷いた。えー、とブーイングを出すスタッフに「あのねえ」と呆れたような声を出して幸隆がスタッフたちに正座させているのを横目に隆丸は喜八瑠を抱えたまま自室に戻り、「まだ飲む」と駄々をこねる喜八瑠をベッドに座らせ、去り際に取ってきたミネラルウォーターのペットボトルを持たせて飲ませる。飲んだのを確認するとベッドに入るように促した。
「酔っ払いは寝なさい。もう、冬休みだったから良いとして学校だったら明日…もう今日か…辛かったよ?」
そう言うと存外素直に喜八瑠はベッドに潜り込む。そしてベッドに腰掛けている隆丸を見つめ不安気に口を開いた。
「……隆丸さん、怒ってる?」
「怒ってないよ。心配してるだけだから。片づけは僕がしてるから喜八瑠ちゃんは寝てていいよ」
ベッドから離れようとする隆丸の手を喜八瑠が掴む。どうしたの、と口を開こうとすると喜八瑠は掛け布団をめくって隣を叩く。
「隆丸さんも一緒に寝てくれたら寝ます」
「……」
「……ダメですか?」
じーっとアルコールのせいで潤んだ瞳が見つめてくる。隆丸は様々なものに耐えながら、尚も見つめ続ける瞳に降参した。
「……分かった」
そう答えると、嬉しそうに喜八瑠は微笑んだ。抱きついてくる喜八瑠に色々衝動を押さえこみつつ、隆丸はクリスマスに渡そうと用意していて渡せなかったプレゼントは起きてから渡そう、と早くも寝息を立て始めた喜八瑠の頭を撫でながらそう思った。
十二月初めの放課後、委員会がある久々知氷華と別れ、尾浜勘右衛門は物理の教科書を片手にお菓子や弁当や漫画が入ったリュックを肩にかけて二年二組の教室に向かう。
「八ちゃーん!」
二組のドアをガラリと開けて、勘右衛門は友人の竹谷八左ヱ門を呼ぶ。まだ何人か残っている生徒がこちらをちらりと一瞥し、一番窓際の後ろの席で呼ばれた八左ヱ門が顔を上げ、向い合って座っていた鉢屋三郎が振り返る。いつも二人といるもう一人、不破雷春もどうやら今日は委員会のようだ。勘右衛門は真っ直ぐ八左ヱ門達がいる席まで行くと、手に持っていた物理の教科書を広げて口を開いた。
「ここ分っかんないんだよね。教えて八ちゃん」
「おう、いいぞ」
快活な笑みを浮かべてスポーツバッグから取り出そうとしていた袋をバッグに押し込みながら八左ヱ門は答える。今生の八左ヱ門は『昔』に比べて非常に頭が良い。自分が転生したから『昔』恋人だった伊賀崎孫兵も転生しているはずだとあらゆる可能性を考慮してひたすら勉学に打ち込んだらしく、学園の入試を彼は主席で合格し、新入生総代も務めたのだ。『昔』は立場が逆だったのになあ、と今も学年上位に名を連ねる勘右衛門はしみじみと思いながら、八左ヱ門の隣の椅子を引っ張ってくる。互いに教え教わる態勢になった所で三郎が女性ファッション誌を捲りながら「なあ」と声を上げる。
「お前ら、クリスマスのプレゼント何にするか決まったか?」
三郎の問いに勘右衛門と八左ヱ門は頷いた。
「俺はこないだひーちゃんが良いなあって見てた服買う」
はーいと手を上げて勘右衛門が言うと、八左ヱ門が「え」と驚いたように勘右衛門を見た。
「勘ちゃん、一人で買いに行くのか?! 勇気あるな!」
「俺は付き合わねぇからな」
先手必勝とばかりに三郎が言う。勘右衛門は「大丈夫だよ。誘わないよー」とけらけらと笑った。
「照姉に付き合ってもらうから大丈夫だってー」
勘右衛門の姉として転生した尾浜照代…元・北石照代(記憶なし)…の名を聞いて、二人は「ああ」と頷いた。流石に男一人で女性服しか売っていない店に入るのは物凄く勇気がいる。勘右衛門はこの時程、女兄弟を持っていて良かったと思ったことはない。三郎はふむふむ頷きながら八左ヱ門に振る。
「じゃあ、ハチは?」
「俺は今準備中」
「「準備中?」」
八左ヱ門の答えに二人が不思議そうに顔を見合わせた。
「おう。これだ」
さっき仕舞い込んだ袋をガサガサとバッグから取り出し、袋の中身を披露した。その途端、二人の表情が凍りつく。
「孫兵の首元にジュンコがいないし、いつも寂しそうにしているからな。少しでも慰めになれば良いなと思ってさー」
優しげな表情で語る姿はとても恋人思いで大変よろしいのだが、如何せん机の上に広げられた物が二人にとっては怖気が走るものであった。いくら、今生が何でも器用にこなして文武両道に優れた人間になるよう努力したとは言え……。
「上手く出来てるだろう? ジュンコ柄マフラー」
少し暗めの赤の地に黒灰色の模様が入ったマフラーは非常に編目も綺麗で、尚且つ柄に崩れも見えない。これが少々雑に仕上げてあれば、「あはは八ちゃん不器用だなあ」などと軽口を叩くくらいは出来るのだが、完成度が高すぎた。お陰で二人は言葉も出ない。漸く勘右衛門がからっからになった口を開く。顔色は真っ青だ。
「……うん。八ちゃん、すっごい上手いね…ジュンコそのものだよ」
「だろう! 編み始めはちゃんと尻尾の形して、編み終わりにはちゃんとジュンコの頭もつくぞ。こう、ぱくっと尻尾を噛んで止めることができるように設計してるんだ!」
にこにこと自慢げに語る八左ヱ門に「そっかー…」と勘右衛門が答える。そんな勘右衛門の肩に三郎がポン、と手を置いた。
「勘右衛門、これは言うべきだ」
「鉢屋…だけど」
逡巡する勘右衛門を置き去りに三郎はビシリと八左ヱ門に人差し指を突き付けた。
「ハチ。正直に言おう。これキモい超重い。大事な事だからもう一度言う。めっちゃキモい重すぎる! 付き合ってる女の子に手編みのマフラー貰うなら兎も角…ていうかそれもちょっと重いけどああでもらぁのならもう喜んで! だが男に! しかもめっちゃ上手過ぎるプロも顔負けとも言えるようなマフラーしかもめっちゃくちゃ難しそうなジュンコ柄!! こんなの貰って引かない奴がいようか!? いやいるまい! 証拠に見てみろ! 勘右衛門及びまだ残ってる奴らも超ドン引いてる顔を!! 絶対伊賀崎もドン引くこと請け合いだ!!」
残っていた他の生徒は三人の視線が向けられるとさっと顔を逸らした。この論争? に関わりたくないらしい。尤もである。
「三郎。孫兵は俺と出逢う為に地上に降りてきた天使なんだ。引くわけないだろう」
「……お前の思考が既にキモかったな…」
「……鉢屋も時々似たようなコト言ってるから人のこと言えないよ」
「「お前に言われたくない」」
八左ヱ門と三郎が異口同音にそう言うと、勘右衛門はきょとんとした後へらりと笑った。
「えー? 俺、天使だとか女神だとか思ったことないけどなー」
その後一頻り、キモい重い、キモくない重くない、の論争が繰り広げられ、委員会を終えて戻って来た雷春によって止められるまで続けられたという。
因みに結果だが。クリスマス当日に嬉しそうに微笑んでジュンコマフラーを巻いた孫兵の写メが三郎と勘右衛門両名に送られ、本文に「孫兵の笑顔とか勿体無いけど証拠として!」と書いてあった。
+++
+タカ綾。
「あぁんもう喜八瑠ちゃんってば可愛いわ~。隆丸君もさすがよねぇ」
顔を真っ赤にして酔っぱらった女性が喜八瑠をぎゅっと抱きしめる。喜八瑠はグラスの中身が零れないよう素早くテーブルの上に置いた。
十二月二十五日のクリスマス。喜八瑠は美容室を営んでいてクリスマス連休で忙しい斉藤家のハウスキーパーとしてこの二日間、家事に勤しんでいた。猫の手も借りたいほどの忙しさの為、雑用係として隆丸も駆り出されることとなっていたのは事前に知っていたので、暇つぶしも兼ねての行動だ。そして無事に二日間乗りきった美容室のスタッフたちが打ち上げ兼クリスマスパーティーと称して美容室の二階にある斉藤家のリビングで予約していたらしいケン○ッキーフライドチキンや寿司にケーキにお菓子、シャンパンなどのアルコール類を大量に持ち込んで騒ぎ始めたのである。
疲れた体にアルコールを入れた店長の幸隆含むスタッフたちはあっという間に出来上がってしまった。黙々とケーキなどを食べていた喜八瑠はスタッフの紅一点である女性スタッフにロックオンされて先程からずっと絡まれている。ちなみに喜八瑠の正面に座る隆丸は自分自身も男性スタッフに絡まれているのと、喜八瑠に絡んでいるのが女性だということで手出ししていないだけなのか、助ける様子は微塵もないようだ。まあいっかと思いながら喜八瑠は女性の好きなようにさせている。
「髪の毛もふわふわさらさらだしいい匂いするし、目もぱっちり二重でまつげも長いし肌もキメ細かくて綺麗だし、手だってすべすべ~。女の子ってこうよね可愛い~」
そしてずいっとなみなみと液体が注がれたグラスを突き付けられる。
「さ、お姉さんと飲もう」
「あの」
「喜八瑠ちゃんは断らないわよね? それとも飲めない?」
「…いえ」
「ウフ。どうせ冬休みだしー、みんなここで雑魚寝ちゃうしー飲んじゃお? 度数そんなないし」
そういう問題でもないのだが、飲まないと場が収まらそうなので喜八瑠はグラスの中身を空ける。
「イイ飲みっぷり! 飲んじゃえ飲んじゃえ♪」
と、また、なみなみとグラスに注がれる。ちらりと女性を見るが目の威圧感が途轍もない。仕方なく、喜八瑠はもう一度グラスを空けた。昔はそれなりに強かったのだから、今生もまあそれなりに強いだろう、と思いながら。
それに気付いたのは大分経ってからで、隆丸は父の幸隆に連れ回された二年間の海外生活で今生の体質が酔い難い体質だった為、こういうスタッフたちが行う飲み会ではよく飲まされていたので今回もいつも通り飲まされていて対処に遅れた。普段は物腰が柔らかな頼れるお姉さん系のスタッフだということと、喜八瑠の顔色が変わっていなかったのも起因していた。
くすくすと笑い合う二人に和むなぁ、と思いながら両脇の男性スタッフに絡まれつつも適当にあしらっていたのだが…気付いた時には遅かった。
カットソーを男らしく脱ぎ捨てた喜八瑠に隆丸は思わず悲鳴を上げた。男性スタッフの目は当然釘付けである。
「ホントだ可愛い~。あ、ちゃんとしっかり固定されてるし、それでその値段って良いね~。私も買お」
女性スタッフが喜八瑠の胸…正確にはブラジャーに触れながら「なるほどねー」と頷いている。隆丸は男性陣の視線から喜八瑠を守るべく慌ててテーブルを回って羽織っていたパーカーを着せてファスナーを上げる。ブーイングを出す男性スタッフらを一睨みし、隆丸は声を荒くした。
「喜八瑠ちゃん何してるの!?」
「え? ブラの話してて見せてるだけですけど」
それがどうかしたのか、と不思議そうに見つめる喜八瑠の目はとろんとして焦点が定まっていない。はっとして喜八瑠の周りを見ると度数が低いアルコールの缶が数本散らばっていて、今も女性スタッフが喜八瑠のグラスに缶の中身を注いでいた。
「何してるんですか」
「え? 喜八瑠ちゃんのグラス空っぽなんだもの」
悪びれもせずに女性スタッフはにっこり笑った。すっとグラスに手を伸ばす喜八瑠の手を掴むと、彼女は不満げに頬を膨らませる。隆丸は「ダメ」と一言言うと喜八瑠を抱え上げた。『昔』は一升程の清酒を飲んでもケロリとしていたのに今生はどうやらそれに比べると大分弱いらしい。
「僕と喜八瑠ちゃんはもう引き揚げるからね!」
そう言うと、幸隆も「そうしなさい」と頷いた。えー、とブーイングを出すスタッフに「あのねえ」と呆れたような声を出して幸隆がスタッフたちに正座させているのを横目に隆丸は喜八瑠を抱えたまま自室に戻り、「まだ飲む」と駄々をこねる喜八瑠をベッドに座らせ、去り際に取ってきたミネラルウォーターのペットボトルを持たせて飲ませる。飲んだのを確認するとベッドに入るように促した。
「酔っ払いは寝なさい。もう、冬休みだったから良いとして学校だったら明日…もう今日か…辛かったよ?」
そう言うと存外素直に喜八瑠はベッドに潜り込む。そしてベッドに腰掛けている隆丸を見つめ不安気に口を開いた。
「……隆丸さん、怒ってる?」
「怒ってないよ。心配してるだけだから。片づけは僕がしてるから喜八瑠ちゃんは寝てていいよ」
ベッドから離れようとする隆丸の手を喜八瑠が掴む。どうしたの、と口を開こうとすると喜八瑠は掛け布団をめくって隣を叩く。
「隆丸さんも一緒に寝てくれたら寝ます」
「……」
「……ダメですか?」
じーっとアルコールのせいで潤んだ瞳が見つめてくる。隆丸は様々なものに耐えながら、尚も見つめ続ける瞳に降参した。
「……分かった」
そう答えると、嬉しそうに喜八瑠は微笑んだ。抱きついてくる喜八瑠に色々衝動を押さえこみつつ、隆丸はクリスマスに渡そうと用意していて渡せなかったプレゼントは起きてから渡そう、と早くも寝息を立て始めた喜八瑠の頭を撫でながらそう思った。
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参加予定。
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プロフィール
HN:
いお
年齢:
37
性別:
女性
誕生日:
1987/03/19
自己紹介:
五年(特にい組)と三年と綾部が好きな一般人←
最近ハートの国のアリスシリーズにハマったらしいです。
最近ハートの国のアリスシリーズにハマったらしいです。
***
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